収録も終わってしまい、車に戻られるのだろうと思っているとスタッフがパイプ椅子の位置を移動している。どうやらそのままそこで休憩されるようだ！ワゴン車の向こう側とはいえ端なので充分に私たちから見える位置だ。
　よりよく見える場所を求めてカニ歩きのように私たちも移動したのは言うまでもない。

　さっきまであんなに視線を避けておられたのに、まさかこんなに近くで休憩されるとは思いもよらなかった。私たちの前には黒服の人が恐い顔で立っておられるが追い払われはしないようだ。

　早速煙草を吸ったり、携帯電話をかける渡部さん。やっぱりお相手は奥様だろうか。
　一度私たちの真っ正面に歩いてこられてドキドキした。そこにいたスタッフの人に小道具の小刀をみせながら「この鱗がね･･･」などと話されていた。あの小刀はストーリーに何か絡んでくるのだろうか？

　やはり地元の見物客の中にもビデオや写真を撮ったりする人がいてその度にあの黒服の人が厳しく注意している。渡部さん御自身もスタッフに「ビデオは止めて欲しいよね」おっしゃっているのが聞こえてくる。それでいて潮の具合を見に来たようなおじさんがすぐ側を通りすぎても何も言われない。
　「私たちも用があるふりをして通り過ぎようか」などと話し合うが私たちではもう放つ殺気が違うので無理だろう。(^_^;)

　でも予想していたよりぴりぴりした感じではなく、笑顔も見せながらスタッフと打ち合わせしておられるようだ。取材の人の写真撮影用に立ち上がって腰にさっきの小刀を差しポーズをつける渡部さん。ちょっと顎をひいて表情を引き締めるだけで様になってしまう。
　ああ、なんて素敵。「私も写真撮りてー！」と心の中で叫ぶ。
　黒ずくめの衣装と思えたがよく見ると黒の上着の下はマフラーと同じ赤色の着物だ。下は本当は袴なのだろうがほとんどズボンにブーツを履いているように見える。上着は膝ぐらいまである長めのものだが上背があるので迫力が感じられてとてもかっこいい。

　「Yカワさん、いまどこ？」「もうすぐ着く？」と渡部さんはまた携帯電話中。Yカワさんって演出のＹ川さん？やがて現われたY川さんと打ち合わせをはじめられる。
　「日本軍が･･･」などといっておられるのが聞こえてくる。やはり演技プランを話し合われているようだ。

　ふと気づくとＫさんは先程の美女とお話されている。この美女がこれからお世話になる事になるＦさんなのだった。